易刺激性や怒りの軽減、言語特性の改善に加え、血漿中のα-シヌクレインのレベルも改善された。
α-シヌクレインは、自閉症や自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断に重要なバイオマーカーとして注目されている。シヌクレインは、神経伝達物質の放出を制御する小さな可溶性タンパク質であり、そのタンパク質や受容体の不均衡や変異がASDとの関連性が示唆されていた。
また、何例かの研究では、低濃度のα-シヌクレインとASDとの間に強い関連性があることが報告されている。
現在、ASDの治療法は確立されておらず、症状を改善するために言語療法や行動療法などの介入が行われている。
腸内フローラ-腸-脳軸の重要性は、アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、ASDなど、腸に関連するさまざまな疾患や神経系に関連する疾患で述べられている。
そこで、インドと日本の研究者らは、ASDの子どもたちを対象に、食品サプリメントとしてのβグルカンの効果を研究しようと考えた。
βグルカンをサプリメントとして摂取すると、腸内菌叢を調整することがわかっている。
今回の研究では、日本のGNヌコーポレーションが製造したサプリメント「ニチグルカン」(黒酵母由来のβグルカンAFO-202)を被験者に投与した。
著者の一人であり、GNコーポレーションの研究開発責任者でもあるサミュエル・アブラハム博士によると「βグルカンにはプレバイオティクスとしての特性があり、プレバイオティクスは腸内細菌叢のバランスを整えることが知られています。」
「また、ASDの子どもたちには便秘が多いのですが、日本で本製品(ニチグルカン)を定期的に摂取しているお客様にアンケートを取ったところ、3分の2近くの方が便秘解消のために摂取していることがわかりました。」
「さらに、ASDの子どもたちでは、正常な年齢をマッチングさせた対照群と比べてαシヌクレインが少なくなっていますが、私たちの知る限り、それらを何らかの方法で調節できるような介入や治療、操作についての報告はまだ文献にありません。」
アブラハム氏によると、ASD患者には他の栄養補助食品が試験的に投与されており、そのほとんどがビタミン、オメガ3、プロバイオティクス、スルフォラファンで、βグルカンの研究はほとんどが動物モデルで行われているという。
「黒酵母Aureobasidium Pullulansが菌体外多糖として産生するこのβ1,3-1,6グルカンは、ASD集団おいてこれまで研究されたことはありませんでした。」
この知見に基づいて、研究者たちは自閉症児におけるニチグルカンの効果を調査した。転帰は小児自閉症評定尺度(CARS)スコアとα-シヌクレインレベルであった。
この論文は現在、プレプリントサーバー「Metrxiv」に掲載され、査読を待っている。
研究デザイン
今回のパイロット臨床試験には、ASDと診断された13人の被験者(3歳から18歳)が参加した。
被験者は2つの群に分けられ、グループ1(n=4)は対照群で、改善行動療法とL-カルノシン500mg/日の補給を受けた。
グループ2(n=9)は、改善行動療法、L-カルノシン(1日500mg)とニチグルカン食品サプリメント(0.5g/小袋、1日2回)が補給された。
アブラハム氏によると、L-カルノシンは抗酸化作用、抗毒性、神経保護作用があり、その補給は自閉症の子どもを対象とした臨床研究で評価されているという。
今回の研究は90日間行われ、ベースライン時と3カ月蒔に小児自閉症評定尺度(CARS)をモニタリングした。
スコアが30未満の場合は十分な徴候や症状がないことを示し、30~36の場合は軽度から重度の自閉症、37~60の場合は重度の自閉症に関連することを示した。
α-シヌクレインレベルを調べるために、ベースライン時と90日目に血液サンプルを採取した。
情緒反応
CARSスコアは、対照群に比べてニチグルカン群で有意な減少が見られた(p=0.034517)。
易刺激性や怒りの軽減(88%)、睡眠の改善(88%)、指差しや単音節の改善を伴う言語特性(77%)、介護者への対応の改善(77%)などの情動反応の改善がニチグルカン群の子どもたちに見られたが、対照群ではこれらの改善は非常に軽度であった。
α-シヌクレインレベル
血漿中のα-シヌクレイン濃度は、ニチグルカン群が対照群よりも有意に高かった(p=0.091701)。
ベースライン時では、血漿中のα-シヌクレインの平均値は約9.39ng/dlであった。90日後には26.72ng/dlまで上昇した。
対照群では、ベースライン時の平均血漿中のα-シヌクレイン濃度は約9.73ng/dlで、90日後には10.56ng/dlとわずかに上昇した。
更なる研究の必要性
ASDの子供を対象とした研究では、ニューロンの結合の喪失または結合不足が行動症状につながることが示されている。
βグルカンは、Il-6やTNF-αなど、自閉症児で高レベルに発現していることが明らかになっている炎症性および炎症促進性のマーカーの発現を抑制することが証明されている。
βグルカンが行動改善を促進し、α-シヌクレインレベルを調節するメカニズムについては、特に腸-微生物生態系への影響について、さらなる研究が必要である。
本研究はパイロット研究であり、被験者数が限られており、各群間で参加者が不均等に分布していたため、より大規模な無作為化多施設共同臨床試験が必要とされている。
出典:medRxiv
https://doi.org/10.1101/2021.06.28.21259619
「無作為化並行群パイロット臨床試験におけるβ‐グルカン食品サプリメント摂取後の自閉症スペクトラム障害における行動パターンとα‐シヌクレインレベルの改善」
著者:Samuel JK Abraham等