ヒトの母乳に含まれるサイトカインは、炎症反応を促進し、乳児の免疫系の発達を促し、調節するのに役立つ。
妊娠中および授乳中の母親にプロバイオティクスを補給することは、母乳中の免疫成分の組成を変化させ、乳幼児や子供のアレルギー発症を予防するための有望な選択肢である。
現在のところ、プロバイオティクスの補給がヒトの母乳中のサイトカインに与える影響については結論が出ておらず、ほとんどの研究では単一の菌株または限られた範囲のサイトカインしか分析されていない。
そこで本研究では、3種類のプロバイオティクス株(Lactobacillus casei LC5、Bifidobacterium longum BG7、Bacillus coagulans SANK70258)を摂取した母親を対象に、27種類のサイトカインを測定するパイロット試験を実施した。
本研究は、日本の乳児・母性栄養メーカーである雪印ビーンスターク株式会社から資金提供を受け、山梨大学の研究者が参加して行われた
研究成果は、Nutrients誌に掲載された。
データ収集と解析
非盲検パイロット試験には、東京都内の授乳中の女性60名が参加した
参加者は、プロバイオティクス群(n = 41)または対照群(n = 19)のいずれかに自発的に属した。
プロバイオティクス群は、L. casei LC5(5×109 CFU)、B. longum BG7(5×109 CFU)、B. coagulans SANK70258(2×108 CFU)を配合したプロバイオティクスタブレットを1日3錠、朝食後に2カ月間(産後1~3カ月間)摂取した。
両群とも、産後1ヶ月目、2ヶ月目、3ヶ月目に母乳を採取し、インターロイキン(IL)、正常T細胞発現・分泌(RANTES)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)など27種類のサイトカインを測定した。
サイトカインの中には、抗炎症作用を持つもの(善玉)と、炎症を起こすもの(悪玉)がある。
研究者らが、初乳(0〜7日)にはより多くの免疫活性分子が含まれているにもかかわらず、成熟乳(1ヶ月以降)を使用したのは、母親へのプロバイオティクス補給の効果を観察するのに適していたためである。
ビーンスターク・スノーは、本試験の試験製剤を製造・販売した。
L. casei LC5は、チーズから分離され、抗炎症作用に関与する。B. longum BG7は、乳児の糞便から分離され、IL-8の産生を抑制し、細菌感染の予防に役立つ。B. coagulans SANK70258は、緑麦芽から分離され、腸内環境を改善する。
サイトカインレベル
IL-10などの抗炎症性サイトカインは、1ヶ月後、2ヶ月後に、プロバイオティクス群が対照群よりも有意に高い値を示した。
IL-10は、自然免疫応答と適応免疫応答の両方において制御分子として重要な役割を果たしており、免疫寛容の形成や組織の炎症抑制に寄与する。
また、VEGFレベルは、1ヵ月後にプロバイオティクス群が対照群よりも有意に高かった。
プロバイオティクス群では、IL-6などの炎症性サイトカインが1ヶ月から2ヶ月の間に有意に減少した。
この結果から、授乳中の母親がプロバイオティクスを短期間摂取することで、母乳中のサイトカイン濃度が改善されることが示唆された。
「今回の研究では、妊娠中ではなく授乳中にプロバイオティクス混合物を補給することで、成熟乳中のサイトカインプロファイルが変化したことが示唆された。」
「アジア諸国では、授乳中の女性の間で栄養補助食品がすでに普及していることから、今回の研究では、乳児にプロバイオティクスを投与する必要のない、プロバイオティクスの補給を実施するための簡単な方法も提供している」と研究者らは述べている。
出典:Nutrients
https://doi.org/10.3390/nu13072285
「日本人女性におけるプロバイオティクス補給とヒト母乳サイトカインプロファイル:非盲検パイロット試験からの後ろ向き研究」
著者:Tomoki Takahashi,ら