ロイヤル フィリップス社のグローバル調査によると、2020年、APACの成人の1日の平均睡眠時間は7.2時間で、約半数(41%)が自分の睡眠の質に満足していないことが判明した。健康な成人に推奨される睡眠時間は7~9時間とされている。
そのため、人々はよりよい睡眠を得るために、サプリメント、瞑想、オンライン情報、遠隔医療などを利用するようになっている。
NutraIngredients-Asia誌では、乳製品、菓子、液剤など、睡眠をサポートする製品を製造している3社に話を聞き、そこに至るまでの道のりを聞いた。
睡眠不足
大手菓子メーカ、江崎グリコでは、2005年からGABA(ɤアミノ酪酸)を配合したチョコレート製品を製造している。メンタルバランスチョコレートGABAというブランドで販売されているこれらのチョコレートは、ストレスを和らげ、リラックスをサポートする機能性表示食品(FFC)となっている。2019年には、特に睡眠をサポートするチョコレートを発売した。
江崎グリコのチョコレート・ビスケットマーケティング部のYuko Yamagamiさんによると、世界的に睡眠への関心が高まっており、世界有数の睡眠不足国である日本や中国では特に注目されている。
「日本では、仕事の効率化に対する意識が高まっており、日本政府は長時間労働の撤廃に取り組んでいます。」
ニュージーランドのボタニカル&ナチュラルヘルスブランドArtemisの創設者であるSandra Clair博士によると、「多くの大人や若者は、膨大なパフォーマンスのプレッシャーや、かつてないほどペースの速い生活に直面しています。睡眠障害は、パンデミックの影響でストレスレベルが上昇したここ12〜18ヶ月の間にさらに顕著となっています。」
また、「私たちが暮らす現在の状況は、睡眠サポートの必要性が高まることを意味しており、今後数年のうちに最も重要な保健介入の一つとなるでしょう」と述べている。
Artemisは、バレリアン、ホップ、ノーブルカバ、リコリスなどの薬用グレードの植物抽出物を使用して、睡眠用の薬用茶や液体製剤を製造している。
英国のSleep Well Milk社は、リラックスしてより良い睡眠をとるために、バレリアンを配合した機能性ミルクを製造・販売している。
Sleep Well Milk社の共同設立者でありディレクターのAllan Watts氏は、「良質な睡眠が得られなければ、本来の半分の能力しか発揮できません」と語る。
同社は最近、今年後半にアジア、特に香港と韓国への輸出を計画していることを発表した。
R&D
江崎グリコでは、中枢神経系で神経伝達物質として働くアミノ酸の一種であるGABAを使用している。脳内の神経伝達を抑え、神経の活動や不安感を鎮めることができる。
研究開発で苦労したのは、チョコレートに含まれるGABAの独特の風味を抑えることだった。
Sleep Wellでは、機能性成分であるバレリアンがGABAを補完するという。
「欧米では多くの研究が行われていますが、バレリアンの作用を示す決定的な科学的エビデンスはありません。バレリアンは脳内のGABAの量を増加させると考えられています」とWatts氏。Sleep Well社は、製品にいかなる健康強調表示もしていない。
グリコのチョコレートやSleep Wellのミルクが機能性食品であるのに対し、Artemisは植物性医薬品と称して、異なるアプローチをとっている。
「多くのお客様は、副作用があり、依存症を引き起こす可能性のある合成品や化学薬品を使用することに抵抗を感じています。
私たちの製品は、医薬品に代わる自然なものであり、弊社の濃縮液体植物薬は、生物活性のある植物化合物の速やかな吸収を可能にします」とClair博士は説明する。
マーケティング上の障害
グリコは研究開発だけでなく、機能性チョコレートを睡眠補助物として販売する難しさにも直面した。
「日本では、夜にチョコレートを食べると虫歯になるという意識があるため、ポジティブなイメージがなく、チョコレートを使って睡眠の質を向上させる商品もありません」とYamagamiさん。
「そのため、発売当初はPRイベントを開催したり、ニュースリリースを配信したりして、認知度を高めていきました。」
発売から約2年が経過した現在では、既存のGABAチョコレートと同様に定着している。
睡眠サポート商品としてのチョコレートにはまだまだ可能性があるとした上で、「生活の中で、より便利で、より頻繁に摂っている食事や飲料に求められているのではないか 」と述べた。